アダム・スミスの『国富論』(諸国民の富)を出来るだけシンプルにまとめました。
詳細解説はこちらで行いました → スミス『国富論』を解読する(1)
ポイント
様々なトピックについて論じていますが、おおまかに原理論と政策批判(重商主義批判)、社会インフラ論の3つに分けて読むと分かりやすいと思います。
原理論
- 分業は富を社会全体に普及させる
- 分業は取引し、交換し、貿易するという人間の傾向がもたらした必然的な結果
- 商品には交換価値と使用価値がある
- 労働は交換価値の尺度
- 商品は労働量に比例して生産されるので
- (労働が富を生み出すとは言っていない)
- 商品の価格=賃金+利潤+地代
- 現代風には、売上高=労務費(売上原価)+利益(営業利益)+販管費
- 価格を自然価格と市場価格の2つで考える
- 自然価格は、自然率にある賃金、利潤、地代の合計
- 実際に売られる価格は自然価格と等しい場合もあれば、そうでない場合もある
- この実際の価格を市場価格と呼ぶ
- 市場価格は有効需要と供給のバランスで決まる
- 構造的に決まる。売り手の意志(よーしこれくらいで売ってやろう)で決まるわけではない
- 有効需要=お金の裏付けがある需要
- 需要が供給に比べて多い場合=モノ不足=価格上昇
- 逆の場合=モノあふれ=価格下降
- 市場価格は自然価格に自然と近似する
- 売れない製品は作られなくなるので、供給量は適切な水準に落ち着くから
政策批判(重商主義批判)
- 分業は富を普遍化すると言った。しかし現実には貧富の格差がある
- なぜか
- 賃金と利潤が人によって異なるから
- なぜか
- 職業の性質のため
- ヨーロッパの政策のため
- 前者は仕方ない。問題は後者
- ヨーロッパの政策の問題点
- 同業組合に特権を与えて競争を制限している
- 公教育にテコ入れして競争を不要に増加させている
- 同業組合法などで労働と富の循環を妨げている(転職しづらい)
- 重商主義批判
- 重商主義=国内の生産物をガンガン輸出して、ガンガン金銀を手に入れれば国が富むとする考え方
- しかし、重商主義は国内の産業部門を犠牲にして、製造業者を富ませるだけ
- 国家レベルで考えれば、重商主義は不適切
- 海外貿易を大幅に自由化するべし
- それによって需要と供給は適切なバランスに落ち着くはず
- (神の)「見えざる手」によってそうなる
- 自分の利益を目指すことで、同時に社会全体の利益も増大させることになるということ
社会インフラ論
- 以下の制度を置くことが主権者(国王、政府)の義務
- 国防:対外的な防衛
- 司法:対内的な防衛
- 交通
- 教育
- 国防が必要な理由=近隣国から富を求めて侵略の対象となるため
- 国防には民兵制と常備軍制の2つがあるが、常備軍のほうがいい
- 司法が必要な理由=国内で富と所有権をめぐる争いが生じるので
- 司法権力を打ち立て、公正にルールを運用すること
- 交通は道路や橋、港など商業を活発化させるために必要
- 公共事業の一環として
- 基本的には受益者負担(利用料を取ればよし)
- 教育が必要な理由=単純労働で精神の豊かさが失われてしまうので
- 分業は単純労働
- そのため人びとは精神の活発さを失ってしまい、おろかで無知となってしまう
- 私教育もあるが、一般国民の教育は公教育のほうが適切
- これら制度を運用するために税金が必要
- 財源は国王・公共の蓄えか、国民の収入のいずれか
- 前者は不十分なので、後者にするしかない
- いわゆる4つの租税原則
- 公平性の原則(各人の能力に比例して:公平 ≠ 同額)
- 明確性の原則(租税法律主義:課税は法律にのみ基づいて)
- 便宜性の原則(所得税は給料日に合わせて)
- 最小徴税費の原則(税金の徴収は低コストで)
- 基本的に税は賃金、利潤、地代のそれぞれに課される
- 賃金に対する税=所得税と消費税(消費税は間接的)
- 財源を確保するためにも、イギリスはアメリカ植民地を放棄せよ
- 現実性がなく、経費ばかり掛かってどうしようもない
- 属州が収入をもたらさないのなら、とっとと撤収せよ
読みどころ
いくつかあるように思います。
- 分業の意義について論じたこと
- 価格を市場的な規模で決まるものとして論じたこと
- 市場を支えるインフラも含めて論じたこと
スミスは経済法則を論じればそれでよしとはしませんでした。分業のもつ社会的な意義や、経済活動を支えるインフラも含めて総体的に考えた視線は、現代の経済学にとっても参考になるはずです。